大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

福岡高等裁判所 昭和39年(ラ)205号 決定

理由

一、抗告の趣旨及び理由は別記のとおりである。

二、抗告人の原審における異議申立の事由が明確を欠き、請求異議の訴をもつて主張すべき異議事由を主張し、あるいは執行の方法に関しない事由を漠然と主張しているかのようにも見えるため、原審は原決定理由二に記載のとおり説明して、異議の申立を不適法として却下したところ、本件記録並びに添付の関連記録(原裁判所昭和三九年(ヌ)第五六号、同三六年(ヌ)第八六号、同三九年(ヌ)第一二号、同年(ヌ)第四八号事件記録)によれば、本件不動産に対しては、(一)執行債権者桑本武徳が、抗告人を執行債務者として、昭和三六年一〇月一二日原裁判所に対し執行証書に基づいて強制競売の申立をなし(前記(ヌ)第八六号事件)同月一三日強制競売手続開始決定がなされたが示談中を理由とする競売期日の延期などのため、競売を実施することなくして日時を経ていた折柄、桑本は昭和三九年一〇月一四日示談成立したことを理由として競売申立を取下げたが、(二)これより先相手方平田隆は、熊本地方法務局所属公証人平島篤二作成第八四、三三七号金銭消費貸借執行証書に基づいて抗告人を執行債務者とし、昭和三九年二月一三日本件不動産に対し原裁判所に強制競売の申立をなし(前記(ヌ)第一二号事件)この申立は(一)記載の第八六号事件の執行記録に添付されたところ、抗告人は平田隆を被告として請求異議の訴(熊本地方裁判所同年(ワ)第三七一号事件)を提起し、民訴第五四七条所定の強制執行停止決定(同年(モ)第四二五号事件)を得、昭和三九年八月八日その正本を原執行裁判所に提出したので、右(ヌ)第一二号事件の強制競売手続は停止されたにもかかわらず(もつとも同年九月二八日平田隆は(ヌ)第一二号事件の競売申立を取下げた)、(三)平田隆は右取下げ前の同年九月一日原裁判所に対し、執行を停止されている前示(二)に記載の執行証書に基づいて、抗告人を執行債務者として、さらに本件不動産を対象とする強制競売を申立て(前示(ヌ)第四八号)この申立も却下されることなくそのまま前示(ヌ)第八六号記録に添付されたが、同月二五日平田隆において右申立を取下げ、(四)この取下げ後間もなく((ヌ)第一二号事件の取下げの翌日である)、同年九月二九日平田隆は抗告人を執行債務者とし前示の執行を停止されている同一の執行証書務名義とし前記同一の不動産に対しまたを債も強制競売を申立てたところ(前示(ヌ)第五六号事件)、原裁判所はこの申立を却下することなくそのまま受理して、同年一〇月一日前示(ヌ)第八六号事件の執行記録に添付したという経緯を経て、

原裁判所所属執行吏木付四郎は、同月一四日すでに競売の申立を取下げた債権者桑本武徳の競売申立による競売及び競落期日公告に従い、同月一五日執行債権者を平田隆として競売を実施したため、(同日付同執行吏作成の不動産競売調書にも債権者を平田隆と明記してあつて、これは債権者桑本武徳と記載するのを誤記したものとは認められない)、北口政義外一名において最高価競買の申出をなしたのであるが、右一〇月一五日の競売当時、桑本武徳はすでにその前日競売申立を取下げていて執行債権者たる資格を失つているから、もし前示強制執行停止決定がなければ、桑本武徳の競売申立取下げと同時に債権者平田隆のため、競売手続を続行すべきであるけれども、右強制執行停止決定は(本件記録及び関連記録に現われたかぎりの資料では)一〇月一五日当時なお効力を有したものと認めるの外なく、同決定の効力の消滅したことが原競売裁判所に判明したのは、熊本地方裁判所裁判所書記官の前記昭和三九年(ワ)第三七一号請求異議事件(同年(モ)第四二五号強制執行停上命令申立事件)は取下げにより既に終了したことを証明する旨同月二七日付の証明書を、平田隆において原審に提出した右同月二七日であることの各事実を認めることができる。したがつて原審としては、強制執行停止決定が本件競売当時なお効力を有したとすれば、競売手続を同年一〇月一四日当時の現状に維持して、執行吏に競売の実施を命ずべきではなく、誤つて同執行吏のなした競売手続は取消すべきであるのはもち論、抗告人の主張に従えば、抗告人が請求異議の訴を取下げたのは、相手方平田隆との間に、前示執行証書によつては強制執行をしない旨の合意が成立しためであるというのであつて、右の合意が成立したとすれば債務者において執行の方法に関する異議である競売開始決定に対する異議においてこれを主張し、不法なる競売手続の排除と競売申立の却下を求めうるは当然である。そして前示認定を参酌すれば、抗告人の主張の前示執行の合意の成立したことのたやすく排斥しがたいものがあるので、原審としてはその主張事実の存否について抗告人の立証を待つて異議申立について裁判をなすのが相当であると認められるばかりでなく、前説示のとおり強制執行停止決定により執行が停止されている場合において、平田隆が競売申立とその取下げとを繰りかえしたと見るにおいては、その行為は、特段の事情のないかぎり執行停止決定の効力を回避しようとする目的に出たいわゆる強制執行権の濫用に外ならないともいうべく、果して然りとすれば執行裁判所はかかる競売の申立を受理して競売申立を続行すべき職責を有するものではないと解するのが相当である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例